こっそりぶろぐ

こっそり書くが別に秘密にもしない。

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走れポンピング (8/17 礼文島)

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 ダイダイは歓喜した。必ず、かの長身痩躯の先輩たちをぶち抜かなければならぬと決意した。ダイダイにはわけがわからぬ。ダイダイは、都の銀行員である。歌を歌い、職場の同期と踊って働いてきた。だから面白いことに対しては、人一倍に敏感であった。三日前の夜ダイダイは都を出発し、野を越え海越え山に登り、何百里もはなれた此のレブンの島にやってきた。ダイダイには北海道にサークルの仲間がいる。それゆえ、それらの人々と遊ぶためにはるばる島にやってきたのだ。先ず、テン場にテントを張り服を洗って干し、それから島の道をぶらぶら歩いた。そしてバスで行ったスコトン岬ではうにジャンで負け、ソフトクリームジャンでも負けた。ダイダイには、心の友があった。ローマである。今はサッポロの市で、学生をしている。その友とこれからゴロタ岬を訪ねてみるつもりなのだ。歩いているうちにダイダイは、みんなの様子をあやしく思った。ざわざわしている。もう既にバスは行ってしまい、次の最後のバスだけだ。のんきなダイダイも、だんだん不安になってきた。4時間コースの入り口に停まっていた観光バスの運転手をつかまえて、ゴロタ岬までどのくらいかかるのか、三年前に此の島に来たはずだが全然覚えていないので質問した。行けると言われたので出発したがすぐにあることに気づき引き返した。バスの運転手が不審に思ってまた話しかけてきた。みんな行ってしまったので仕方なくローマだけが残って、質問に答えた。
「夕飯の食材を、買わなければ行けません。」
 今いるところから歩いていける範囲には食材を買えるような店は無かった。ここからテン場へはバスで行くしかないが、もう最終しかないので途中で降りることはできない。しかし今夜のテン場、緑ヶ丘キャンプ場の近くにも店は無いので食材を買うことはできない。ヒッチしか手はないが、スコトン岬には観光バスだらけで普通の車はほとんど停まっていなかった。悩みながらローマがみんなに追いつくと、ポンピングがサンダルを脱ぎ、運動靴に履き替え始めた。荷物を人に預け、買うべき食材をローマに聞いてきた。わけがわからぬダイダイは、イグリンティウスに質問した。
「おどろいた。ポンさんは乱心か」
「いいえ、乱心ではございませぬ。バスを、待つことはできぬ、というのです。店のあると思われるフナドマリまで約8Km。これをキロ5(1km5分)で走れば40分。最終バスが岬を出るのは約50分後なので10分以上買出しをすることができるのです。」
 聞いて、ダイダイは歓喜した。「シャッターチャンスだ。クラウチングスタートしてください。」
 ポンピングは、単純な男であった。言われたとおりクラウチングスタートしたが、全くその意味はない普通のスピードで走り始めた。なぜかイグリンティウスもあとから走り出す。こちらはサンダルのままで荷物も背負っているので明らかに不利だ。二人の姿はぐんぐん小さくなり、あっという間に見えなくなってしまった。爆笑しながら見送った三人は、ヒッチしながら歩くことにした。少しでも進んだほうが分かれ道から車が来る可能性もあるし、万一失敗しても島ではバスはバス停でなくても停まってくれるのだ。
「絶対に、車をつかまえる!あの努力をどうしても無にしてやりたいのだ。」とダイダイは悪びれずに言った。
「そうだ!」と残りの二人も、勇んで賛成した。「努力を才能で打ち破るのは、最も気持ちがいいのだ。必死になって走っている二人に親指のシックスセンスが打ち勝つ」シックスセンスという言葉の使い方には二人は反駁した。
「昨日のリシリ山に登っているとき、実は3度も動悸の発作が起きていたと、下山後にわしに教えてくれたのは、ポンさんだ。彼の心臓は、あてにならない。ポンさんは倒れているかも知れぬ」ダイダイは嬉しそうに呟き、また笑った。
「車だ!」親指を立てたが二度失敗した。しばらく歩いてかなり遠くまで見渡せるところまででたが、二人の姿は影も形も見えない。ずいぶん先まで行っているようだ。
「ばかな」ダイダイは低く笑った。「とんでもないことだわい。その陰で倒れているに違いない」
「車です。やってくるのです。」3人は必死で親指を立てた。車は停まった。「私たちを、フナドマリまで連れて行ってください。食材を、売っている店が私たちを待っているのだ。」
 それを聞いて、運転手と同乗者は寛容な気持ちでそっと乗せてくれた。おかしなことを言うわい。どうせ、学生に決まっている。この3人を乗せて行ってやるのも面白い。
「実はこの先にも友達が二人走ってるんですけど…」車内でダイダイが二人のことを切り出すと、
「そうです、マラソン好きの友達がいて…」てんぱったローマが余計あやしいフォローをした。
「へー、好きなんだー…」運転手も合わせてくれた。
 イグリンティウスは、3kmほど先で、発見された。佳き友と佳き友は、20分ぶりで相逢うた。ダッシュは、友に一切の事情を語った。イグリンティウスは、車に乗るのを遠慮し、あとで来るバスに乗ろうとした。運転手と同乗者の説得もあり、ようやく車に乗ることになった。車は、すぐに出発した。盛夏、日が傾いてきている。
 ポンピングは、8kmの路を急ぎに急いで、車がその姿を発見したのはさらに2km先だった。実は、走り始めてすぐに後ろがヒッチで車をつかまえる可能性には思い当たった。しかし打ち消して走ってきたのだ。
 私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。五臓が疲れているときはふいとあんな悪い夢を見るものだ。ポンピング、お前の恥ではない。やはり、お前は真の勇者だ。立って走れるではないか。
 ポンピングは、黒い風のように走った。少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も早く走った。急げ、ポンピング。遅れてはならぬ。愛と誠の力を今こそ思い知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。見える。はるか向こうに小さく、フナドマリの街が見える。
「おーい」楽しげな声が、風と共に聞こえた。
「誰だ」ポンピングは立止まった。近づいてきた車には全員が乗っている。
「もしもし?」ポンピングの納得できない気持ちが4文字に込められていた。
「乗らない?」助手席の人からも誘いの言葉が聞こえた。イグリンティウスとは違い全く躊躇せず即座に乗った。
「おまえらの望みは叶ったぞ。おまえらは、わしの足に勝ったのだ。ヒッチとは、決して空虚な妄想ではなかった。わしをも車に乗せてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」 と心で思いながら。
 どっと群衆の間に、歓声が起った。
「万歳、ポンさん万歳」
 勇者は、ひどく赤面した。

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(伝説と、太宰治の小説から)
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コメント


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おもしろすぎ

ダイダイ黒すぎ 笑
こんなおもしろい読み物は久しぶりに読みました。
そしてすごい遅いけど、大変痛いことがあったようで、体には気をつけてー。

み | URL | 2009年09月10日(Thu)22:01 [EDIT]


ひさしぶりー。
言い方はともかく、だいだいがあんなこと言ってたのは事実だよ。
ありがとう。あれは、本当に死ぬかと思ったよ。

だっしゅ | URL | 2009年09月12日(Sat)03:31 [EDIT]


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